筑紫女学園報/2011年(平成23年)2月5日発行 No73
Chikushi Jogakuen Online Report
 
学園報トップに戻る

大学・短期大学部トピックス
高等学校・中学校トピックス
幼稚園トピックス
法海
連載企画
ご意見・ご感想


こころの時代に 9
実物と写真の違いに驚く 大学・文学部長 間瀬 玲子

ネルヴァル研究のきっかけ
 大学院生の頃から19世紀フランスの作家ジェラール・ド・ネルヴァルを研究している。大学生の頃、主人公の性格や行動がはっきりしているスタンダールやバルザックの小説に読み耽り、ついに飽きてしまった。主人公たちの行動があまりにも自分自身の現実とかけ離れていると感じていたのだと思う。それに対してネルヴァルの作品に出てくる主人公には明確な性格や行動もない。そこに新鮮な感動を覚えたことを今でもはっきりと覚えている。しかしその時はネルヴァルという作家が非常に手ごわい相手だとは思わなかった。
デューラーの版画
 ネルヴァルの小説『オーレリア』や詩篇『廃嫡者』にドイツの画家アルブレヒト・デューラーの「メランコリアI」(1514年/メレンコリアIと表記している著作もある)の影響を受けた箇所がある。大学院生の頃からこの版画を見たいと熱望していた。暗い表情でたたずむ天使と左上の彗星がコントラストをなしている。ネルヴァルはこの版画に描かれた彗星を終末論と関わる《黒い太陽》だと思い込んでいたそうである。
実物を見た感想
 このように世界的に有名な版画を研究対象にしようとは思わなかった。しかし何だか心のどこかにひっかかりを感じていた。その憧れの版画が日本国内のある美術館に所蔵されており、しかも版画展が開催されることを知った時は本当に驚いた。観客はほとんどいなかったので、ひとりでじっくりと鑑賞した。係の人から「怪しい人」と思われても仕方がないほど眺め回した。近くから時間をかけて見ると、目立つのは実は天使ではなく、足元のかんなや鋸、頭上の砂時計、梯子などである。やたらと小道具の多い版画であり、私の頭の中で高尚な版画から身近なものへと変化した。実物は見てみるものである。
 なおアメリカの作家ダン・ブラウンの作品にこの版画が描かれている。注目度が増すと美術館で展示される頻度が高くなるかもしれない。


▲PAGE TOPへ



Copyright 2002 Chikushi Jogakuen