No.1
2021.04.01

目標は臆さず発信し、
複数の強みを掛け合わせ、
周りも巻き込みながら夢を叶えて

Profile 永松 愛子 さん
国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構
(Japan Aerospace Exploration Agency:JAXA)
筑紫女学園高等学校| 1993年卒業
01筑女に入学したきっかけを教えてください。
小中一貫校に通っていて、高校をどこにしようかと考えていた時に、すでに筑女に通っていた中学時代の先輩から「すごく楽しいよ」と勧められて受験しました。学校を訪れた時、生徒の皆さんとすれ違うたびに挨拶をしてくれて、礼儀正しいという印象でした。
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02高校時代、特に印象に残っていることはありますか。
毎日放課後は何かしらの校内活動に参加していました。部長を務めた化学部では、文化祭の時に参加型の実験や楽しんでもらえる展示を企画したり、ボランティア活動では手話や点訳をやったりもしました。クラスメイトも部活メンバーもみんながんばり屋さんが多く、遅くまで残って一緒に勉強していました。大人になっても仲が良く、お互いの結婚式に出席したり、子どもが生まれたら見に行ったり、コロナ禍でもSNSで連絡を取り合っていました。同じ年だから似たような悩みを抱えていることも多いので、お互いの近況を話すことが今でも支えになっています。
03積極的にいろんな活動に取り組んでいたんですね。

とにかく興味を持ったことをまずはやってみる、さらに関心を持ったことには突き進む、というのは今も昔も変わりません。私は小学生の頃から宇宙に関わる仕事に憧れがあり、高校でもその夢を語っていました。そうすることで先生方が「宇宙開発の最新記事を見つけたぞ」と見せてくださったり、「将来海外でも活躍するなら英語スピーチ大会に出てみるか」と勧めてくださった上、遅くまでその練習に付き合ってくださったり、世界を見ることの大切さも教えていただきました。女子校ならではかもしれませんが、先生方は「女子だからといって後ろに下がって遠慮する必要はない」「臆さずやりたいことはどんどん発信しなさい」と背中を押してくださいました。私は小学生の頃から宇宙に関する新聞記事をずっとスクラップしていたのですが、それがきっかけで新聞社の取材を受け、向井千秋宇宙飛行士や毛利衛宇宙飛行士と実際にお会いしてお話をすることができました。子どもの頃にぼんやりと描いていた宇宙への憧れが、明確に宇宙開発の仕事に就く目標に変わったのは、こうして発信し続けたからではないかと思います。学校の中だけでがんばるのではなく、外に出て社会とつながって、その中で自分の居場所を見つけたり貢献できることに注力したり、仲間と励まし合いながら進めることができたのは私にとって貴重な経験でした。

04卒業後の進路と今のお仕事についても教えてください。
向井宇宙飛行士の研究活動からライフサイエンス分野に関心を持ち、宇宙開発に関連した大学・大学院を選び、遺伝子工学を学びました。卒業後はJAXAに入社し、今度は宇宙放射線計測の学位も取得し、約20年エンジニアとして研究に邁進しました。ロケット、人工衛星、国際宇宙ステーションの技術開発や基礎研究に携わり、宇宙放射線による環境計測や人体への影響に関する多くの宇宙実験を実施しました。その後3年ほど、研究分野から離れ、広報業務にも携わりました。ここでは管理職としてチームをまとめながら、JAXAで行っている宇宙実験や研究の成果をどう見せれば一般の方にも面白さが伝わるかを考え、報道メディアに宇宙開発の最新トピックスを発信していく役目を担っていました。研究開発とは別の視点から宇宙開発に関わったことで、組織全体を俯瞰して見る視点が身に付き、研究部門についても、この研究とこの研究をつなげれば相乗効果が出るのではないかといった横断的な見方もできるようになりました。2019年に再び研究開発部門に戻った時には、チームマネジメント力が磨かれ、研究開発を長期的に、部門横断的により良くしていくような考え方ができるようになったと思います。
05お仕事のやりがいや意識している点をお聞かせください。

子どもの頃からの夢だった宇宙開発の研究部門で20年もエンジニアとして働けることができ、とにかく楽しいし、毎日充実しています。基本的な部分は、筑女の化学部で毎日実験に明け暮れていたり、宇宙開発の夢を発信していたりした高校時代と変わっていないかもしれません。今も、「こうしたい、こうしよう」というビジョンがあれば、それを語って発信すること、多くの方の協力を得られるように働きかけること、私がずっと変わらずに続けてきていることですね。宇宙開発の仕事は規模が大きく、国際協力の場において1人でできることは限られていますが、同時に1人の責任もとても大きく、プレッシャーを感じる瞬間も多々あります。そこは、1人で抱え込まずに、みんなと共に乗り越えていくものだと考えています。

06お仕事での今後の目標はありますか。
宇宙開発は、これまでは国や宇宙機関が主体となって実施してきた事業でしたが、民間企業が主導する時代が始まっています。実は、私自身も宇宙飛行士の選抜試験を受けたことがあるのですが、宇宙飛行士でなくても、誰もが旅行に行くような感覚で宇宙に行ける時代がすでに来ていると感じています。これまでの視点とは全く異なる新しい技術開発や研究開発分野の要求が高まり、それらの技術進歩によって、気軽に宇宙に行ける日もそう遠くはなさそうだと本当に楽しみにしています。あと30年もすれば、移住先の宇宙ならではの新しい職業が生まれても不思議ではありません。こうした技術の進歩を最前線で進めながら、情報を皆さんに伝えていくことで、より宇宙が身近に感じてもらえたらいいなと願っています。
07筑女での学びの中で今の仕事につながる部分はありますか。

発信力と巻き込み力については、筑女で「後ろに下がらず、どんどん前に出て発信していい」と背中を押された影響が大きいと思います。そのことで夢も叶ったし、仕事を始めてからも国際協力の中でプロジェクトを前に進められていると実感します。自分から発信して自分で動く力って大事ですよね。夢や目標を発信していくことで、あなたを応援してくれる人も現れます。周りを巻き込んで、自分も流れに乗って学び続けて、それをくり返しているうちに想像もしていなかったような場所に立てていることってあると思います。筑女で温かく見守っていただき、育ててもらったように、私も次の世代に技術を受け継いでいけたらと考えています。

08夢に向かって進む後輩の皆さんにメッセージをお願いします。
筑女には、卒業してからも教育実習(高校生物)と、全校生徒に宇宙開発について話す講演で呼んでいただきました。その際には、生徒の皆さんに「夢を叶えるコツ」を聞かれました。高校生活の中でやりたいことを見つけること、やりたいことがあればとにかくそれを発信することが大事ですね。もし、将来やってみたいことが現在は明確でないとしても、SNSで世界中の人に質問ができますし、いろいろな分野を深く勉強する中で、目標ができることもあります。とにかく自分から動き出すことで、次の可能性やチャンスにつなげられるのではないかと思います。自分の強みや専門は1つだけに絞る必要はないです。興味や強みは増やし続けておくことも大切です。1つの興味や強みを軸にまた次の強みへと広げていけると、それぞれの強みが相乗効果を起こしてくれることがあります。例えば、英語ができるだけじゃなくて、中国語やロシア語もできれば3つの文化を知ることができて、新しいビジネスを生み出したり、何か新しい分野の懸け橋になったり、他の人が持っていない強みになるかもしれません。私は、遺伝子工学+物理、研究開発+広報、ロシア語と英語とドイツ語、エンジニアとお母さんと強みや社会経験を掛け合わせていくことで、新しい成果につなげられたと実感しています。筑女の校風として、前に進む生徒のことをしっかり見守り、寄り添いながら背中を押してくれる温かさを感じられると思います。自分の限界を自分で決めずに、伸び伸びと夢を語って、筑女で大きく羽ばたいてください。
メイテック/fabcross for エンジニア