今月のことば

2021年のことば

2021.06

    新型コロナウィルスの感染拡大、さらには変異株の感染拡大を受け、再度緊急事態宣言が発出され、さらに延長されることとなりました。ソーシャルディスタンスが推奨され、人と人の距離が感じられるようになってきました。そこで、挨拶についてお話ししたいと思います。

    挨拶は、元々は仏教用語で、「挨」には近づく、推しはかる、触れるという意味があり、「拶」には引き出す、せまる、切り込むという意味があります。禅宗では「一挨一拶」といい、師匠が門下の僧に、または修行僧同士が軽く、強く言葉や動作でその悟りの深浅を試すことがあります。これを挨拶と言っていました。これが転じて現在私たちが使う挨拶となっていきました。また、挨拶をするときに私たちは「会釈」をおこないます。この「会釈」も仏教用語です。「和会通釈」の略で、表面上は互いに矛盾するように見える教説を意義が通じるように解釈する、という意味であり、そこから転じて、多方面に気を配り相手の心を推しはかって対応することを「会釈」と言います。

    昨年お亡くなりになった野球解説者である野村克也氏は「挨拶は、人間らしく生きるための基本の心である」と仰っていますし、NHKアナウンサーだった鈴木健二さんは「挨拶とは『心を開いて相手に迫る』ということです。」と仰っています。

    「おはよう」「こんにちは」等の挨拶で笑顔が生まれます。気持ちがほぐれ、そこからコミュニケーションが弾むということもあると思います。また、相手の声の大きさやトーンから「今日は元気がなさそう」「今日も元気いっぱいだ」等、相手の状態を推しはかることもできます。一言の挨拶で相手との心の距離が接近し、お互いの心の中から温かいものが引き出され、心を満たしていきます。そして相手に喜びと安らぎを与えていく何よりの実践です。つまり挨拶とは心の距離を近づけるために必要なものであり、人間関係をよくする潤滑油としての役割をはたしてくれるのです。事実、「あいさつは、ひと・まち・こころの愛ことば」をスローガンに運動をおこなった地域が、今まで以上に密着した、犯罪の少ない町を作り上げた事例もあります。

    そして、挨拶の「近づいて迫る」という本来の意味から考えると、自分から近づいて挨拶をするということが大切なのです。また、布施(見返りを求めず、分け隔てなく施すこと)には「無財の七施(財がなくてもできる7つの施し)」があり、その中に眼施(優しいまなざし)、和顔悦色施(笑顔)言辞施(優しい言葉)があります。挨拶をするということはこの3つの布施をおこなうということになります。

  まだまだ人との距離に気をつけなければなりませが、挨拶の心を大切にして、“こちらから先に”を心がけた挨拶をして、心の距離を近づけていくことを大事にしていきたいものです。

(文責:宗教科)