今月のことば

2019年のことば

2019.09

今月のことばは、「わらじ医者」と呼ばれ長年京都で地域医療の発展に尽くされた早川(はやかわ)一光(かずてる)先生の言葉です。早川先生は、戦後まもなく京都・西陣に「医療にかかれない人々に医療を」「自分たちの生活と健康は自分たちの力で守ろう」という住民出資の白峰診療所(後の堀川病院)を開設し、在宅医療という言葉がない時代からそのパイオニアとして活躍されました。その理念には、住民が中心となり心の通った医療が大切であるとして長年地域医療に携わる一方で、「敵味方なく生命あるものを大切に」「自分たちの命と暮らしは自分たちで守るという考え方が根付けば、民主主義は発展する」と語られ、医療活動を通じて、一人ひとりが自分のいのちを大切にすることで平和な世の中となっていくことを訴えられました。それでは、早川先生が言われる「自分のいのちを大事にすることは、となりの人の命も大切にすることと同じ」とはどのように考えたらいいのでしょうか。

   祇園精舎におられたお釈迦様に次のようなお話があります。

ある日、お釈迦様がサーバッティーの町に向かわれていたところ、小さな川の岸で多くの子どもたちが「きゃっきゃっ」と騒ぎながら魚をつかまえては殺して、楽しそうに遊んでいる様子を目にされました。これを見ていたお釈迦様は子どもたちに近づいて行かれ、次のように声をかけられました。「子どもたちよ、殺される魚をかわいそうと思わないか。君たちは苦しいことが好きか、この魚のように苦しめられ殺されることが怖いとは思わないか。」と尋ねられると、子どもたちは「お釈迦様、私たちも苦しいことは嫌いです。」と答えました。お釈迦様は、うなずきながら「よし、苦しいことが嫌だったら、自分にも他の動物や人間にも悪いことをするのではない。もし、魚を殺したり痛めつけたりすれば、最後はきっと自分自身が苦しむことになる。」と諭されました。

   また、お釈迦様の遺された言葉のなかにも「すべての人々は暴力を恐れる。すべての人々にとって、いのちは愛しい。自分におきかえてみて 殺してはならない。殺させてはならない。」(『法句経』(130)『聖典』P196)とあります。お釈迦様は、子どもたちに対して頭ごなしに「殺すな」といわれるのではなく、「君たちは苦しいことが好きですか」と子どもたちの心にたずねながら、わが身にひきくらべて相手のことを想う気持ちの尊さを教えられています。さらに、お釈迦様は人間だけのいのちが尊いのではなく、生きとし生けるすべてのいのちが「尊い」ということを説かれていかれます。ともすると、私たちは身近な人間関係だけでいのちの大切さを考えて尊いと思いがちですが、いのちあるすべてのものへの尊厳の気持ちをもつことが重要なことです。またそうであるとわかっていても、その尊いいのちを奪ってしか生きられない私たちの悲しい事実があることを合わせて考えていくこともさらに大切なことだと思います。

   このように考えていくと、私たちの身近にある様々な問題についても、改めてわが身にひきくらべて想い考えることで新たな解決策が見つかることもあるのではないでしょうか。

(文責 宗教科)