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法海
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法海

 

「現代日本人の宗教観」
熱心にメモをとりながら臨まれる方が多かった、金児先生の講座。 老若男女、幅広い層の受講者が多数ご来場!
 この日、福岡国際ホール・志賀の間にて開催した本講座には、用意していた席がほぼ全て埋まるほど…しかも老若男女、幅広い層の受講者にお集まりいただきました。開始直前の会場を見渡すと、着席するやいなや、メモの準備をされる方なども多数見受けられました。
 はじめに本学小山学長から「日本人の宗教観に関する、新しい角度からの示唆に富んだお話を楽しみにしています」との挨拶の後、金児先生の経歴紹介に続いて、いよいよ講演がはじまりました。
観れば若者も共感する寅さん映画の秘密とは?
 社会心理学を専門とされる金児先生のお話しは、先生が50年以上にわたって通い続ける理容室のご夫婦についてのエピソードからスタート。先生とご夫婦とのやりとりの様子をはじめ、その軽妙な語り口に、思わず聞き入ってしまいます。
 そのエピソードとは――「長年夫妻が飼っていたペットが亡くなった直後、奥さんの調子が悪化。それはペット・ロス症候群と言われる現代人特有の心の病だった。ご主人がいろいろと手を尽くしても、なかなか調子が上向きにならない彼女。そんな彼女の回復のキッカケが、たまたまテレビで放映されていた寅さん映画を見て、久しぶりに笑ったことだった」――というもの。このエピソードを皮切りに、映画『男はつらいよ』シリーズと日本人の心性との関係性の分析へと、話題は移ります。
軽妙洒脱なお話ぶり、興味深いテーマ続出…。瞬く間に過ぎた120分でした。  先生の検証によれば、『男はつらいよ』が山田洋次監督作品であることを知っているのが10数%という学生約300人に、授業の一環として同映画を見せたところ、学生たちの多くが、最初はダサいと感じながら見始めたが、鑑賞後、その印象は大きく変わったとか。そしてキーワードとして挙げられたのが――(1)ゆったり ほのぼの (2)懐かしさ (3)家族の温もり (4)安らぎと安心/心の癒し――といった事象であり、現代を生きる多くの若者の中にも、寅さん映画への共感の土台が内包されていることが確認できたとのこと。それではなぜ、日本人は寅さん映画で心癒されるのか、話題はさらに、深い部分へと進みます。
日本人が持つ原意識の根源をズバリ分析
 寅さん映画への反応をとおして垣間見ることのできる、日本人の心性の根幹とは何か? 先生曰く「日本という場所の地勢学的な要因、つまり、恵まれた自然環境の中で生まれた“森の文化”“鎮めの文化”が、『原恩の意識』を紡ぎ出し、仏教伝来以前の時代にすでに存在していた感覚が、仏教と結びつくことで、より一層、強い心性として育まれてきた」とのこと。また、こうした心性は、「厳しい自然環境の中から生まれた“砂漠の文化”“煽りの文化”に端を発して、『原罪の意識』を根源とするユダヤ教や、キリスト教、イスラム教が誕生したこととは、まさに対照的」との分析や、その両者が歴史的に生み出してきた功罪のお話などで、多くの受講者がうなずく様子が印象的でした。
今後、私たちが歩むべき心の方向性とは?
 そして話題は、いよいよ佳境へと突入。日本人の心性をよく表わしたキーワード“おかげさま”“祟り”感覚の根源はどこから来たのか? そして、自然環境に対して“身をまかせる”“調和する”というスタンスから生まれた“慈悲”、(良い意味での)“諦観”といった日本人独特の概念などについての解説。さらに“煽りの文化”が生み出した最大の財産である「科学」が、現代日本の、特に若者たちの宗教観や宗教的行動にどのように影響を与えてきたかという点について、様々な調査を元にしたいくつかのエピソードを紹介されました。
 その話によれば、「科学が発達した現代においても、宗教は衰退することなく、形を変えて存在している。しかも、仏教信仰率の高い県とそうでない県において、生活満足度調査や犯罪率調査と合わせて分析してみると、信仰率の高い県に住んでいる人々は生活にも満足し、犯罪率も低く、穏やかに感謝の念を持ちながら生活していることが読みとれる」とのこと。
 そして最後に、これらの事象から、今後、私たちが歩むべき心の方向性への示唆で締めくくられ、盛大なる拍手の中、この日の講座は終了しました。
私たちも行ってきました 〜ご来場者アンケートより〜

非常に楽しく勉強できました。(58歳男性)
現代日本人に欠けている部分を、改めて思い知らされた気がします。(62歳男性)
日頃、ほとんど考えたことのなかった「若者の宗教観」について、改めて考えることができ、大変よかったと思いました。(45歳女性)
僧侶という立場からみると、お墓参りをしたり、お守りを持っている人は多いけれど、おつとめをする機会などが減っているということについて、考え直さねばならないと思わされました。(25歳男性)
今後も、宗教(特に仏教)と生き方に関わるテーマを取り上げてくださればと思います。質疑応答の時間が設定されていたのは、大いによかったです。(78歳男性)
「生きること」「死ぬこと」について、大変を関心を持っておりますので、今後もこのような講座を続けて欲しいと思いました。(71歳女性)
“おかげ”意識の効用についてのお話が大変おもしろかった。信仰の度合とパラレルな関係があるのでは、と感じました。(74歳男性)
講座の内容すべてが勉強になります。理想とはまだまだ隔たりのある私自身の信心。知識と信心が結ばれるような智慧はないものか、考えているところです。(69歳男性)
講師プロフィール

かねこ・さとる●大阪市立大学学長。文学博士。1973年の奉職以来、一貫して同大学に在籍する傍ら、カンサス大学客員研究員、ハワイ大学客員研究員、国際日本文化研究センター客員教授、ハンブルク大学客員教授も兼任。2004年4月より現職に。著書に『寅さんと日本人−映画「男はつらいよ」の社会心理』(共編著)、『文化行動の社会心理学』(共編著)、『サイコロジー事始め』(編著)、『日本人の宗教性−オカゲとタタリの社会心理学』(著)などの他、学術論文も多数。

※「法海」とは、仏法の広大なことを海にたとえている言葉です。

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